イスラエルスタートアップ関連本のご紹介! Vol.2 ~ タルピオット-イスラエル式エリート養成プログラム ~
最近は毎月のように販売されるイスラエル、スタートアップ関連本。その中でもメディアのタイアップなどいろいろな所で目にすることの多かったこちらの本を今回は解説していきたいと思います。
タルピオット イスラエル式エリート養成プログラム
- 想定される読者
イスラエルに興味はあるが、ほぼ知識がない方向け。
また、これからイスラエルとのビジネスを始めてみたいと考えている方。
- 内容
タイトルは『タルピオット』とされているものの、タルピオットに関する内容はインタビュー(起業家のインタビューは除く)を入れて18ページで全体ページ数の10分の1程度になっていますので予めご認識ください。実際のプログラムの内容が簡潔にまとめられて書かれていて、タルピオット出身者の声も盛り込まれており、タルピオットプログラムがどういったものかを知る上では役立つ内容になっています。
全体の内容としては、イスラエルがスタートアップネーションと呼ばれる所以と、そのエコシステム、そして日本企業がイスラエルスタートアップ企業とのビジネスを成功させるにあたっての心構えが簡潔にまとめられた、イスラエルのスタートアップエコシステムに関する入門書兼、日本における起業家育成と日本でのイノベーション創出にあたっての指示書のような内容です。
2020年出版の新刊であるものの、前半(1章〜特別章)のイスラエルとそのスタートアップエコシステムに関する内容は、少しでもイスラエルに関する情報に触れたことがある人なら恐らく既知の内容がほとんどです。
どちらかというと、これからイスラエルを知る人にとって概要を知る上で申し分ない内容の書籍と考えます。
後半は、日本社会と日本企業が今後イノベーション創出にあたり、いかにイスラエルと協働していくべきかの説明となっています。
- 各章の紹介とオススメの章
1章:「中東のシリコンバレー」イスラエル
現在のイスラエルの経済状況、特にハイテク産業の状況に関する説明と、海外からイスラエルスタートアップへの投資状況やイスラエルへの進出状況の説明です。
2章:「スタートアップネーション」の誕生
イスラエルがいかにしてスタートアップネーションとなったか、建国からの簡単な歴史を説明。ヨズマプログラムの説明を始めとした、スタートアップネーション形成にあたってのイスラエル政府の活動についても簡潔にまとめられています。
3章:イスラエルを支える「エコシステム」の秘密(オススメの章)
イスラエルのスタートアップエコシステムがどのように形成されたか、イスラエル人のメンタリティーと、それを形成するイスラエルの教育方針について、実際にイスラエル人とビジネスを行なっている日本人や現地大学で教える講師の話を交える形で記載。また兵役を教育システムと捉え、兵役がエコシステムの形成に与える意味についてもイスラエル人起業家の話を交えながら説明しています。
特別章:イスラエル国防軍「タルピオット 」プログラム(オススメの章)
タルピオットプログラムの説明の章です。プログラムの仕組みと、実際にプログラムでどのような課題や訓練が課されているかを説明しています。タルピオットプログラムを通して身に付く起業家として役立つ力を7つ挙げ、タルピオットプログラムでそれらの力が重視される理由についても説明しています。
またこの章ではタルピオット出身者のインタビューに加え、起業家5名へのインタビュー記事も盛り込まれています。
4章:なぜ、日本企業にイスラエルのスタートアップが必要なのか
日本にユニコーン企業が少ないことを挙げ、日本企業でイノベーションを起こすには、市場としてのポテンシャルの高さと、製品ではなく技術要素を保有するイスラエルが非常に良いパートナーであると説明しています。
5章:イスラエルスタートアップと組むヒント(オススメの章)
日本企業が実際にイスラエルスタートアップと提携するにあたって必要となる心得を説明しています。一般的な内容ではあるものの、実際にイスラエルに視察に行くにあたっての具体的な準備から、協業先選定までに必要となる要素を日本企業にありがちな行動パターンとイスラエル人の考え方を紹介しながら説明している入門書は珍しく、これからイスラエル進出を考える企業には参考になる内容かと思います。
6章:イスラエルとの協働から日本を変える(オススメの章)
イスラエル人が持つ問題や課題に対する「気づき」や「問題解決意識」を養うことや、イスラエル政府のようなスタートアップ推進策を取り入れることが、日本における真のイノベーション人材の育成と日本変革につながるという提案の章です。
おそらくこの章が著者である石倉氏が一番伝えたいことではないかと感じられる熱の篭った章です。イスラエルのスタートアップエコシステムとイスラエル人の物事の捉え方を日本に取り入れることで、日本にイノベーションを起こす方法を見出そうと投げかけています。
- まとめ
イスラエルという国をこれから知る人向けの入門書としては読みやすく一定の価値がある内容になっています。
ただ、実際に日本–イスラエル間のビジネスに関する経験やイスラエルでの居住経験があれば特別視していない筈のこともタルピオット特有のものかと思われる形で書かれていることは少々違和感があります。
例えばイスラエルタルピオットプログラムの章で取り上げられている「タルピオットで身に付く7つの力」に関して言えば、タルピオットプログラムだから身に付くものではなく、どちらかというとイスラエルの教育(家庭での教育を含む)から身に付く力で、程度の差はあれタルピオット出身者でなくても多くのイスラエル人が身につけている力ではあります。
いずれにせよ、初めてイスラエルのことを知る人にとっては入門書になる一冊になるでしょう。