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イスラエルスタートアップ関連本のご紹介! Vol. 1 コレは外せません – Start-up Nation (和訳版) –

 記

イスラエルと言えば、ハイテクスタートアップと聞いたことがある方もいるかもしれない。しかし、なかなか行く機会の無いイスラエル。中東の西端、地中迂回の東端にある小国がなぜハイテクスタートアップで有名になったのか。

 

イスラエルハイテクスタートアップに関する本の中で全世界で最も読まれているであろう本が、Start-up Nation 。その和訳版が『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』(ダン・セノール (著), シャウル・シンゲル (著), 宮本喜一 (翻訳)、ダイヤモンド社)です。

 

今回はこの本の概要を紹介したいと思います。

本の題名:アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?――イノベーションが次々に生まれる秘密 

ダン・セノール (著), シャウル・シンゲル (著), 宮本喜一 (翻訳)

ダイヤモンド社、2012/5/17初版

こちらは英語版が原本なので、英語版を読まれたい方は以下をお読みください。

  1. 想定される読者

 

タイトルにあるようなアメリカの大企業が自社の成長のためにイスラエル企業に注目する理由や、イスラエル企業の価値とイスラエル経済の成長の歴史を知りたい人。

 

  1. 内容

 

邦題を見ると、本書を読むことで、アメリカの大企業がイスラエル企業を欲しがる理由が明かされるような印象を受けますが、原題の通り『Startup Nationと呼ばれるイスラエルの経済の奇跡がいかにして起こったか』を紐解く解説本と言った方が正しいです。イスラエルの経済成長の歴史と、Startup Nationと呼ばれるまでに至った理由を、イスラエルという国の成り立ち、イスラエル社会を取り巻く環境、軍や兵役のあり方を通したイスラエルにおける教育、そしてイスラエル人の国民性やメンタリティーといった様々な切り口から紐解いています。

 

また、具体的なイスラエル企業の成功事例や歴史上の出来事が盛り込まれており、イスラエル企業の価値や、イスラエルという国を理解する上で読んでおくべき一冊です。

以下で忙しい方々のために、オススメの章をピックアップし読み飛ばしできるようにしましたのでご参考ください。

 

 

  1. 各章のご紹介とオススメの章

 

序章:(オススメの章)

 

独S A Pのエクゼクティブを務めていたイスラエル人起業家のシャイ・アガシ氏が起こした電気自動車企業(ベター・プレイス)の話が本章の軸となっている。イスラエルの元首相シモン・ペレス氏や当時日産とルノーのC E Oであったカルロス・ゴーンといった大物を、アガシ氏がどのように説き伏せ、その後いかに資金調達を行い、開発を進めたのかという話から、イスラエル人起業家の強みと何故、イスラエルという小さな国で混沌とイノベーションが同時に存在しているのかを紐解こうとしています。

 

またスタートアップ大国となった2008年のイスラエルの状況とそこに至るまでのイスラエル建国からの歴史についても簡単に説明。後段で詳しく説明されるイスラエルが経済成長を遂げるにあたっての要素が簡単に紹介されている、文字通り『序章』です。

 

 

Part 1

1章:「粘り腰」(オススメの章)

 

当時無名であったイスラエル人起業家シュヴァット・シャケッド氏が開発したオンライン詐欺対策のソリューションをペイパルが買収するに至った話を、当時ペイパルのプレジデントを務めていたスコット・トンプソン氏の目線で記載。トンプソン氏がシャケッド氏の発想力とソリューションに衝撃を受けたことや、イスラエル訪問時に受けたイスラエル人に対する衝撃を通して、イスラエル人が持つ「フツパー」と呼ばれる精神と、失敗に対する考え方の違いや、粘り強さについて解説しています。

 

またインテルのイスラエルチームのチップ開発の話を例に挙げ、イスラエル人の発想力と、所構わず議論を繰り広げ、課題解決に努める姿勢が、革新の一因であることを解説しています。

 

 

2章:戦場の起業家 (オススメの章)

 

1973年にイスラエルが建国後唯一敗戦したヨム・キプール戦争におけるイスラエル国防軍(IDF)の一部隊の行動とそこで生まれた新たな戦術を例に挙げ、イスラエルにおける軍隊の組織構造とその強みを解説。他国と比べてイスラエルにおける軍はより上級士官の人数が少ない組織体制となっていること、階級制度がほぼ意味を成さず、階級の上下に関わらず自らの意見を述べ、自由に議論することが許されること、また下層部の士官であっても、広範囲におよぶ責任を持ち、常に自ら判断し行動することが求められ、評価される環境であることを説明しています。

 

このような環境は必ずしも軍に限ったことではなくイスラエル企業内でも同様であり、イスラエル起業家が新たなアイデアや発想の転換を生む理由であると説明しています。

 

 

Part 2

3章:”情報源”を自らつくる人たち

 

イスラエル企業がいかに海外進出を果たしているかについて、イスラエル人が世界中を旅し、行く先々でお互いにとって『情報源』となるものをばら撒いていく話を元に解説しています。

イスラエルでは兵役と周囲の敵国からの解放感を求めて兵役後に多くの若者が世界中を旅します。このことからビジネスにおいても国外へ進出することに対する抵抗が少ないと説明。周囲を敵国に囲まれていることから、国境を容易に超えられるインターネットやソフトウェアといったハイテク分野でのビジネスが成長したことも、海外進出の要因と解説しています。

 

また、旅先で情報源となるものを残していったように、国外に出向くと自らの自国の情報をばら撒くイスラエル人の習性が、結果として国外で適切なパートナーを見つける役に立っていると解説しています。

 

4章:ビジネススクールより強い絆 (オススメの章)

 

イスラエルにおける兵役の位置付けと重要性について解説。大学入学前に2年から3年、様々な環境で育った仲間と軍での共同生活を経験することで、イスラエルの若者は他国の同年齢の若者と比べて、広い視野と経験を持つことになります。この兵役期間に育まれるハーバードやスタンフォード以上に強い絆とネットワークが、イスラエル社会を支える基盤となっていると説明しています。

 

またイスラエルの場合、軍が優秀な人材を選抜できる仕組みができていて、IDFのエリート部隊がアメリカの一流大学に等しい存在であることと、IDF内のテクノロジー・イノベーション領域におけるさらなるエリート部隊「タルピオット 」についても解説あり。ミッションの完遂にこだわるリーダーを輩出することを目的としたタルピオット プログラムの内容と、その結果タルピオット出身者が企業で重要な役割を果たしており、軍での経験やそこで構築されたネットワークが経済活動と直結している点について説明しています。

 

 

5章:秩序が混乱に出会うところ

 

何故イスラエルがスタートアップ大国となれたのか、イスラエルと同様に徴兵制のあるシンガポール、韓国との比較を通して解説しています。同じ徴兵制と言っても、そこでどのような素質が評価されるかは国により全く異なります。イスラエルにおいては「自ら判断し、必要な努力は惜しまず、命令に忠実に従い最高の結果を出す」ことが求められます。ただし、イスラエルでは「命令に忠実に従う」とは任務を遂行することであり、上層部の指示に忠実に従うことではありません。事実、「上官に異議を唱えることは下級の兵に与えられる命令の一つ」と捉えられており、必要であれば上層部と意見を交わし、失敗を恐れない精神と探究心で、新たな試みを行うことが歓迎されます。秩序と命令への従順さが重要視されるシンガポールと異なり、イスラエルには流動性が存在し、これはイスラエルが秩序と混沌が入り混じる環境にあることから生まれるもので、このイスラエルの環境こそが、経済学者が「混乱の淵」と呼ぶ起業家が生まれる理想的な環境であると説明しています。

 

 

Part 3

6章:うまくいった産業政策 (オススメの章)

 

イスラエルの現在に至るまでの経済成長の過程を、政府の政策という観点から建国来の歴史に沿って解説しています。

 

前半は初代首相ベングリオンが「ユダヤ人国家」建国を唯一の目的として入植計画を推し進める中、キブツと呼ばれる共同体の存在が、イスラエルにおける最初の飛躍の中核となり農業革命とテクノロジーの発展により始まった最初の経済成長について説明。その後、政府指導により行われたインフラ整備や国の経済政策の歴史についても解説しています。

 

後半は『失われた10年』と呼ばれる1973年のヨム・キプール戦争後の経済の落ち込みとその後同国を襲ったハイパーインフレの時代の政府の経済立て直し施策について解説。最後に、イスラエルがテクノロジー国家として真の経済的飛躍を迎えられた理由は政府の政策だけではだけでなく、新たな移民、戦争、ベンチャーキャピタル業界の3要素が必要であったと説明し、次章以降のトピックへつなげています。

 

 

7章:移民(オススメの章)

 

イスラエルがどのような移民政策を行ってきたかについての解説をしています。

 

移民の存在はイスラエルの国防と国の繁栄のために重要な存在であったたため、社会的地位や経済基準を設けず、「ユダヤ人」であればとにかく受け入れるという方針を取っていたこと、移民受け入れにあたってのプログラムはあったものの、受け入れ体制が万全とは言えなかったこと、ハングリー精神に溢れる優秀な人材にとっては、ハイテクセクターにおけるチャンスや起業家となる道があった一方で、エチオピアからの移民など教育面で秀でることができない移民は結果としてイスラエル経済への負担となったことなどを説明しています。

 

しかしながら、たとえ負の要素があるとしても、イスラエルにとって現在でも変わらず移民は国家形成において重要な要素であることを述べています。

 

8章:ディアスポラ

 

2004年に米シスコ社が発表した大型ルーターの開発に関わったイスラエル人、ミハエル・ラオール氏の話を元にディアスポラ(一般的には民族離散を意味するが、この本ではより世界中に移り住んだユダヤ人の意味に近い使われ方)によるイスラエルの経済発展について解説しています。

 

国際的な移民調査機関が『頭脳循環』と呼ぶ現象がイスラエルにも起こっており、海外に流出した優秀な人材が、海外で業績をあげたのち、国に戻ってくることで、イスラエルの経済発展に大きく寄与していると説明。また、イスラエルの航空産業の話を例に挙げ、他国で発生しているディアスポラと異なり、イスラエルの場合、イスラエルが祖国だから戻るという理由だけでなく、イスラエルという国を「ビジネスの場」と捉え、非イスラエル系を含むユダヤ人コミュニティーを活用することでビジネスの活性化を図っていると説明しています。

 

9章:バフェットのテスト

 

イスラエル企業は、戦争でミサイルが投下されても工場での稼働を完全に止めることなく、あたかも戦争など起こっていないかのように、期日通りに顧客への商品を納品することができた。この、本来であれば非常にリスクが高い環境において通常通りの生産性を維持できるイスラエルの力こそが、グーグル、マイクロソフト、そしてアメリカ国外で企業買収をしないという方針を掲げてきたウォーレン・バフェット氏を魅了し、彼らがイスラエル企業を買収する理由だと解説しています。

 

またインテルのチップ386がイスラエルで生産され、工場での稼働は戦争下においても止められたことはなかったという話を挙げ、世界の投資家や多国籍企業が、戦争をイスラエルに対する破壊的リスクと捉えず、戦争下でも揺らぐことのないイスラエル経済と産業への高い信頼を持っていると説明しています。

 

10章:ヨズマ(オススメの章)

 

ヨズマ・プログラム(イスラエル政府主導によるイスラエル国内のベンチャーキャピタル創出を目的とした政策)誕生の経緯とその成功の理由を解説しています。

 

1980年代のイスラエルには、技術はあったもののビジネスに発展させるにあたっての経営力や販売力がなく、資金の調達元も不足していました。ヨズマ・プログラムの先駆けとなったのはアメリカとイスラエルのジョイントベンチャーを支援するためのBIRDと呼ばれる基金で、この基金によりイスラエルの起業家が投資家とマッチングできる場が初めて生まれています。その後、このマッチングのアイデアを基本とし、技術やアイデアを商業化するためにビジネス知識と資金の両面における支援をより多くのケースで可能とするためにヨズマ・プログラムが誕生しています。

 

ヨズマ・プログラムはビジネス指導と資金源の双方の意味でイスラエルにとって課題であった、『海外ベンチャーキャビタルのイスラエルへの誘致』という課題解決のため、海外(特に米国)のベンチャーキャビタル・投資家を巻き込み、海外投資家に利益を還元できる形でのプログラムにしたことで成功を果たしたと説明。

 

最後にネタニヤフ氏が行なったイスラエルの金融業界の改革についても触れ、金融業界においてもハイテク業界同様に、イスラエルが投資市場として国際的に注目されるようになったことを説明しています。

 

Part4

11章:ロケットの先端部から湯沸器まで

 

イスラエルでは全員が軍隊での経験を経ていますが必ずしも軍隊の経験と同じ仕事に就くとは限りません。そのため必然的に自身の職業領域と全く異なる領域の知識をかなり深い範囲で身につけていることが多く、軍人としての経験と民間人としての経験を結びつけることにより、他の国では生まれないような領域でのアイデアの融合が生まれると解説。筆者はこれをテクノロジーのマッシュアップと呼び、この現象はイスラエルにおいて特に医療機器とバイオテクノロジーの領域で頻繁に発生していると、具体的なマッシュアップの例を挙げて説明しています。

 

12章:シャイフのジレンマ

 

イスラエルは、同じ業界で働く人が極度に集中することで、ハイテク産業をはじめ、あらゆるところで経済にとって好環境である「クラスター」が生まれていると述べ、ドバイなどアラブ諸国における環境と比較しながら、イスラエルが持つクラスターを生み出す条件について解説しています。
他の中東諸国と異なり、イスラエルは石油と政治的しがらみから自由であり、女性の社会における活動制限がありません。また教育レベルが高く、企業家精神溢れる「ユダヤ人」が上下関係なく活躍できる環境が整っていることから、イスラエルではクラスターが生まれ、経済成功の要因となっていると説明しています。また「イスラエルを真のユダヤ国家にしようとするイスラエル人共通のコミットメント」が起業家の活力や挑戦心を沸き起こす強い要因となっているとも説明しています。

 

13章:経済的奇跡に対する脅威(オススメの章)

 

イスラエル経済にとって、経済成長を維持させることが課題であると述べ、その課題解決の脅威となっているのは国外への優秀な人材の流出であると解説。テクノロジーセクター以外の経済が同セクターの成長に追いついていないことで、優秀な人材が活用し切れていないことが人材流出の要因の一つであると指摘しています。

また成長セクターの偏りに加え、超正統派のユダヤ人コミュニティとアラブ人コミュニティがイスラエルの経済活動圏外に置かれており、経済活動(労働)に従事する国民の割合が低く留まっている点(註:本書出版時点)も指摘しています。

イスラエルにはイノベーションと起業家を生み出す文化的・組織的基礎があるにも関わらず、その資産を国内で成長させていく力に欠けている点が、イスラエル経済にとっての課題ですが、一方で課題解決において他国では障害となる国民性など文化的な問題がイスラエルには少ない点はイスラエルにとって幸いであると説明しています。

 

終章:ハイテクを育てる農民(オススメの章)

 

本書の中心的な疑問である、「イスラエルが革新的で起業家精神溢れる国に成長した要因」を改めて振り返る章。

 

イスラエルの成長について、シモン・ペレス氏の大統領時代の活動を振り返り、ペレス氏が農業を含むあらゆるところにテクノロジーを見出し、国の成長に貢献して来たことが、今日までのイスラエルの経済成長の一因となっていると説明。典型的なクラスターの要素と他国の国民が持ち合わせていない積極性や失敗を恐れない精神がその要因ではないかと総括。

 

結びとして、イスラエルには他国が持ち合わせていないアイデアを創出する力がある一方で、他国のように大企業レベルでアイデアを活用できているとは言えないため、お互いの流儀を学び合うことこそさらなる発展への着実な道だと述べています。

 

まとめ

 

Start-up Nationと呼ばれるに至ったイスラエルの軌跡を称賛するわけでは無く、具体的な症例や他国での状況との比較を織り交ぜながら第三者的な目線で、様々な切り口から同国の経済成長の要因を説明しているため、イスラエルの経済成長の理由を中立的な目線で理解することができる本です。

イスラエルにおける兵役制度、特殊部隊『タルピオット』そしてヨズマ・プログラムと言った今日のStartup Nationイスラエルを語るにおいて欠かせない要素についても詳細に述べられており、概要を理解するのに役立つ本となるでしょう。

 

またイスラエル人の国民性やイスラエルの社会性に触れている部分が多く、出版当初から時間は経っているものの、今読んでも色褪せず役立つ内容が多いのではないかと思います。

 

歴史的な史実やイスラエル企業の成功事例など具体的な話がベースとなっているため、イスラエルの歴史やスタートアップ関連に明るい人にとっては分かりやすいと感じますが、一方で一つの章内に複数の話が詰め込まれており、多少の知識がないと逆に読みづらい部分があるのではないかとも思います。

ただ、実際にイスラエル企業とのビジネスや、新規事業の立ち上げなどに携わっている人にとっては、イスラエル人の考え方や発想力を知ることで、新たな気付きを得られる本だと考えます。

 

また、イスラエルという国を肌で感じた後にも、答え合わせをするつもりで読んで欲しい一冊でもあります。是非、以下より手に取って読んでみてください。

英語版も是非ご検討ください。